おにぎりブームは「ぼんご」から始まった。
この一文が、今の日本の外食トレンドを端的に表していると言っても過言ではありません。手軽でありながら、具材や製法にこだわる専門店の登場により、おにぎりという身近な存在が新たな価値を持ちはじめています。
おにぎりの可能性を広げたのは、東京・大塚駅前にある老舗「おにぎり ぼんご」。2017年頃から行列のできる人気店となり、その味わいや提供スタイルが多くの模倣店を生み出しました。そして今、この流れは一過性のブームを超え、大手飲食企業や異業種の参入を巻き込みながら“おにぎり文化”として拡大し続けています。
本記事では、なぜ「ぼんご」が再評価されるようになったのか、その背景と共に、どのような波及効果が業界全体にもたらされたのかを紐解いていきます。さらに、コメダ珈琲や象印といった企業がどのような戦略でおにぎり業界に挑んでいるのかも詳しくご紹介。そして最後に、これからのおにぎりブームがどこへ向かうのか、日本の食文化の未来にまで迫ります。
この記事を読めば、おにぎりブームの“核心”と、ぼんごの果たした役割が明確にわかります。
おにぎりブームはなぜ再燃したのか?「ぼんご」が起こした食の革命
1-1 おにぎり専門店「ぼんご」が再評価された背景とは
「おにぎり ぼんご」は1960年創業の老舗であり、長く地域密着型の存在として営業してきました。しかし注目されるようになったのは比較的最近で、2017年頃からSNSやメディアを通じて人気が爆発。行列のできる店として知られるようになりました。
再評価の背景には、食の多様化とともに「原点回帰」への欲求があります。シンプルながら奥深い味わい、厳選された米と具材、そして職人の手仕事という要素が、現代の消費者に強く響いたのです。特にふんわり握られたご飯と、たっぷり詰まった具材のバランスは他店にはない魅力です。
また、海外での日本食人気の高まりとともに、おにぎりは寿司やラーメンに続く次のスターとして注目されており、その先駆けとなったのが「ぼんご」でした。
1-2 時代に合った食スタイルと健康志向のニーズ
現代の食シーンでは、「健康」「手軽」「満足感」が重要視されています。ぼんごのおにぎりは、シンプルながら栄養バランスがよく、1個で十分な満足感が得られるという点で評価されています。
さらに、ヴィーガンやグルテンフリーに対応しやすく、仕事の合間や移動中にも食べやすいため、働く世代や女性層の支持が厚いのも特徴です。健康志向の高まりと、和食の再評価が相まって、ぼんごのおにぎりは「ちょうど良い食」として受け入れられています。
1-3 メディアとSNSによる拡散と長蛇の列の影響
SNSやYouTubeでは、ぼんごのおにぎりが「映える食べ物」として紹介される機会が増えました。特に具材の詰まり具合や握る様子が視覚的にインパクトがあり、拡散力の強いコンテンツとなっています。
行列の様子がメディアに取り上げられ、「一度は食べてみたい」という欲求を刺激。これにより全国的に知名度が上昇し、「近くにもあればいいのに」と考える人が増えたことで、類似店の誕生にもつながりました。ぼんごはまさに、ブームの起点となった存在です。
「ぼんご」発の進化系おにぎりがもたらす業界への波及効果
2-1 フランチャイズ展開を許された唯一の存在「おにぎり こんが」
「おにぎり こんが」は、ぼんご唯一の公認フランチャイズ店として2021年に誕生しました。わずか数年で7店舗にまで拡大しており、ぼんごスタイルのおにぎりに対する安定した需要を裏付けています。
こんがでは、ぼんごの基本スタイルを継承しつつ、各地域に合わせたメニューやサービスを導入。再現度とローカライズのバランスが評価され、リピーターも多く存在しています。
2-2 名古屋・神戸・羽田へ急拡大した理由と地域ごとの特徴
「こんが」は、羽田空港や名古屋、神戸元町など人の流れが多い立地への出店に成功しています。特に羽田空港店では、1日あたり2000~2500個の販売数を記録するなど、圧倒的な実績を見せています。
地域ごとの消費傾向も興味深く、名古屋ではオフィス街、神戸では高級百貨店の大丸を利用する女性客が主な層。立地に応じた戦略的な展開が功を奏し、各地で確実にファンを獲得しています。
2-3 大手飲食企業による参入で加速する差別化戦略
近年では、コメダ珈琲が「米屋の太郎」としておにぎり事業に参入。名古屋名物を活かした「味噌カツ」や「天むす」など、地域色を打ち出した具材で独自性を確立しようとする動きが目立ちます。
また、象印や3COINSといった異業種も参入し、それぞれ独自のブランディングと商品開発を展開。3COINSでは「スリコオニギリ」として地方の郷土料理をモチーフにしたメニューを展開し、象印は高級炊飯器で炊いたご飯を使った創作おにぎりを提供しています。
いずれも「ぼんご」が示したおにぎりの可能性を受け継ぎつつ、“自社らしさ”で勝負しているのが特徴です。
おにぎりブームが大手企業を動かした理由とその挑戦
3-1 コメダが仕掛ける「米屋の太郎」の戦略と現地の反応
全国にカフェチェーンを展開するコメダホールディングスが、2025年2月に立ち上げたのが、おにぎり専門ブランド「米屋の太郎」です。この動きは、これまでのブームに乗る形ではなく、明確な戦略意図のもと実施されたものであり、業界内外から注目を集めました。
米屋の太郎の特徴は、注文ごとに作る「結びたて」の提供スタイルにあります。使用する米は、全国の産地から選び抜いたオリジナルブレンド米で、のりも愛知県鬼崎産の優等級品を使用するなど、素材へのこだわりが徹底されています。
メニューには「紅しゃけ」「おかか」などの定番のほか、「味噌ヒレカツ」や「うなぎ」「天むす」など、名古屋名物を活かした変わり種も豊富に用意。23種類のラインアップは、価格帯150〜580円と幅広く、顧客のニーズに応じた選択が可能です。
オープン直後は混雑していた新宿センタービル店も、1カ月後には落ち着きを見せ、モバイルオーダーを活用した効率的な提供も注目されています。味やサイズ感、提供スピードのバランスが高評価されており、リピーターも少しずつ増加しているようです。
また、併設された「おかげ庵」では、一部メニューをイートインでも楽しめるようにするなど、和カフェ文化とおにぎり文化の融合にも取り組んでいます。このように、コメダは自社の強みを活かしつつ、新たな和食マーケットの開拓を着実に進めていると言えるでしょう。
3-2 象印や3COINSも参戦、“おにぎりでブランディング”の現状
異業種からの参入で注目されているのが、家電メーカーの象印マホービンと雑貨ブランドの3COINSです。象印は2022年、大阪の阪神梅田本店内に「象印銀白おにぎり」をオープンしました。ここでは同社の高級炊飯器「炎舞炊き」で炊いたご飯を使い、五ツ星お米マイスターによるブレンド米でおにぎりを提供しています。
玄米やもち麦を選べる点や、月替わりの創作メニューなども人気で、主に30〜50代の女性をターゲットに展開。2025年9月には新たに大阪市・京橋のコムズガーデン内にも店舗を出店予定です。
一方、3COINSでは、2025年2月に原宿本店で「スリコオニギリ」としておにぎりの販売を開始。「にんじんしりしりー」「いぶりがっこ&クリームチーズ」など、全国各地の郷土料理をテーマにしたメニューは、手軽さと話題性を両立させています。価格帯も270〜324円と日常使いしやすい設定です。
⋱#3COINS 原宿本店限定⋰
『おにぎり』はじめました🍙
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全国各地の郷土料理をテーマにつくられたスリコオニギリ全10種類を販売中!こだわりの詰まったおにぎりをぜひお楽しみください✨ pic.twitter.com/Hw4y7s6CdA
— 3COINSスリーコインズ【公式】 (@3COINS_news) February 7, 2025
このように、おにぎりを“ブランドの顔”として活用しようという動きは、今後さらに広がる可能性を秘めています。特に、「機能+物語」を提供できる企業ほど、独自色を出しやすい状況にあると言えるでしょう。
3-3 海外でも注目!「Onigiri」がファッションや語彙にまで浸透
おにぎりブームの影響は、日本国内だけに留まりません。2024年には、英国の『オックスフォード英語辞典』に「Onigiri」が新たな語句として追加され、英語圏でもその存在が認知されるようになりました。
また、ファッション業界でも注目され、イタリアの高級ブランドFENDIは、2024年冬のクリスマスコレクションで、おにぎり型のミニバッグを発表。SNSを中心に話題となりました。
さらに、欧州や北米では、日本人起業家によるおにぎり専門店が次々にオープン。米イリノイ州の「Onigiri KORORIN」、ドイツ・ベルリンの「Tokyo Gohan」などが地元メディアにも取り上げられ、人気を集めています。
象印はこれを受け、2024年から「ONIGIRI WOW!」という世界発信プロジェクトを開始。2025年の大阪・関西万博では、ロボットが握るおにぎりを実演販売する計画も進行中です。
このように、おにぎりは今や国境を越えた食文化の象徴へと進化しつつあり、次世代の和食アンバサダー的存在として期待されています。
おにぎりブーム ぼんごが象徴する未来と日本食文化の可能性
4-1 「おにぎり」という食文化が持つ普遍的な魅力
おにぎりは、日本人にとって最も身近な食べ物のひとつです。手軽で、おいしく、栄養価も高い。そして、食材の工夫次第でバリエーションも無限に広がるという点で、和食の多様性と柔軟性を象徴する存在です。
この普遍的な魅力が、今あらためて再評価され、時代にマッチした形でブームを生んでいます。
4-2 価格・原価・需要のバランスと今後の成長性
一方で、業界内では課題も指摘されています。原材料費の高騰や、手作りによる人件費の負担は無視できません。「こんが」の運営会社によると、「コンビニ価格との比較により、売価を上げづらく利益を取りにくい」という実情があるそうです。
それでも、羽田空港店のように1日2500個を売り上げる店舗が存在することから、高品質を求める消費者の層は確実に存在しており、そのニーズに応える形で成長する可能性は十分にあります。
4-3 国内外で愛され続ける「ぼんご」スタイルの持続力とは
「ぼんご」のおにぎりが長く愛され続けている理由は、派手さではなく「基本を極めた味」にあります。派手な演出に頼らず、具材と米のクオリティで勝負し続ける姿勢こそが、模倣店では再現できない「本質的な価値」なのです。
今後、おにぎりブームは淘汰のフェーズに入り、“話題性だけ”の店舗は厳しい局面を迎えるかもしれません。しかし、ぼんごスタイルのような誠実なブランド作りができる店舗こそが、生き残る鍵を握ることになるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この記事が少しでも参考になったなら幸いです。
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