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親が借りた奨学金、子に返済義務はある?異例の逆転判決が示す現実

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「親が勝手に借りた奨学金の返済を、自分が負わなければならないのか?」

──そんな疑問に正面から答えを出す異例の裁判が、2025年3月に札幌地裁で下されました。結論から申し上げると、契約に本人の関与がなければ、たとえ名義が子どもであっても返済義務は認められない可能性があります。

この判決では、日本学生支援機構(JASSO)が、40代女性に対して98万円の奨学金返済を請求しました。ところが、その奨学金は両親が本人に無断で申し込み、母親の治療費に使用していたという事情が明らかになったのです。1審では支払い義務ありとされたものの、2審で一転して返済義務が否定され、女性の主張が認められました。

本記事では、この逆転判決の内容を踏まえ、「奨学金は誰の責任なのか」「本人が関与していない場合の対応策」「奨学金制度の仕組み」など、同様の不安を抱える方に向けて、実例をもとにわかりやすく解説していきます。

制度の理解と備えがあれば、予期せぬトラブルから自分自身を守ることができます。

親が借りた奨学金、なぜ子どもが返済しなければならないのか?

1-1 奨学金契約の基本構造と「本人の責任」原則

奨学金は、教育の機会を支える制度として多くの学生に利用されています。なかでも日本学生支援機構(JASSO)の「貸与型奨学金」は、返済義務のある制度であり、原則として進学する本人が契約者となることが基本です。

しかし、未成年の時期に保護者が手続きを代行し、本人が内容を理解しないまま契約名義人となっているケースも少なくありません。今回札幌地裁で争われた事例では、まさにこのような状況が発端となりました。

この件では、女性の両親が2000年から2003年まで毎月5万円(合計180万円)の奨学金を借り、その資金を母親の治療費に使用していたことが判明しました。さらに、女性はその契約内容について何も知らされていなかったにもかかわらず、名義人であるという理由だけで日本学生支援機構から返済を請求されたのです。

奨学金契約は民法上の金銭消費貸借契約にあたり、有効な契約と認められるためには契約者本人の意思が必要とされます。つまり、本人が申込書に署名していない、または契約の存在自体を知らなかった場合、その契約は無効となる可能性があります。

重要なのは、形式的に名義が本人であったとしても、契約に実質的な関与がなければ、返済義務が生じないと判断される余地があるということです。家庭の中で行われた「善意の代理行為」であっても、本人の知らぬ間に進められた契約が、将来的にトラブルを引き起こす可能性があることを、改めて認識する必要があります。

1-2 実際に起きた札幌地裁の逆転判決の経緯

この事件は、40代女性が日本学生支援機構から約98万円の奨学金返済を請求されたことをきっかけに始まりました。支援機構側は、契約名義が女性本人であることから返済義務があると主張し、一審の札幌簡易裁判所ではその請求が認められる形となりました。

一審では「親が文書を偽造するとは考えがたい」という判断が下され、名義人である女性が事実上の契約者として扱われたのです。これに対し、女性は「両親が自分に無断で申し込みを行った」として控訴。札幌地裁の二審で事態は大きく動きました。

裁判では父親が「娘に心配をかけたくなかったため、内緒で奨学金を申し込んだ」と証言。その証言の信用性が認められ、「女性が奨学金契約に関与していなかった」と認定されました。

この判決により、一審の判断は取り消され、日本学生支援機構の請求は棄却されました。さらに支援機構は上告を見送り、2025年3月22日にこの二審判決が確定しています。

この裁判が注目された理由は、非常に稀な「名義人の返済義務否定」が認められたからです。これは今後、同様のケースで争いが発生した場合における、重要な参考事例になると考えられます。

親の奨学金契約に子どもが関与していなかった場合の対処法

2-1 本人確認や契約書面の有無で立証できることとは?

自分の知らないうちに名義を使われ、奨学金の返済請求が届いた場合、まず確認すべきは「契約に関与した事実があるかどうか」です。日本学生支援機構では、申込時の契約書や本人確認書類が保存されているため、それらを開示請求することで、本人の署名や押印の有無を確認することが可能です。

たとえば、署名が明らかに他人の筆跡である、押印が本人の印鑑ではないなど、書類の形式的な矛盾が見つかれば、それは本人の意思による契約ではなかったことを示す材料になります。加えて、契約書類の送付先や奨学金の振込先口座も、誰が実質的に受給していたかを把握する上での重要な情報となります。

さらに、契約時期の行動履歴(留学中・在学中でなかったなど)や、家庭内での金銭の流れなどを整理することで、「契約をしていない」ことの状況証拠として提出することが可能です。

このように、本人の関与がなかったと証明するためには、書面の矛盾点・生活履歴・金銭の流れなどを総合的に確認し、記録として残すことが求められます。

2-2 返済請求を受けたときにすべき初動対応とは

返済請求書が届いた際、「知らない契約でも払わなければいけないのかも…」と慌てて支払いをしてしまう方が少なくありません。しかし、支払いを開始してしまうと、事実上その契約を認めたとみなされる可能性があるため、まずは冷静に対応することが重要です。

最初に行うべきは、支援機構に対して「自分はこの契約に関与していないため、返済義務がない」との意思表示を、できるだけ文書で提出することです。電話だけで済ませるのではなく、書面に記録を残すことで、後々のトラブルを防ぐことができます。内容証明郵便を使えば、送付の証拠も明確に残せます。

また、必要に応じて情報開示請求を行い、契約書類の写しを取り寄せましょう。その上で、弁護士や法テラスに相談することで、今後の対応方針について専門的な助言を受けることができます。

支援機構との対応は、法律上の交渉になることも多いため、できるだけ早く第三者の専門家に相談することが、結果として自分の立場を守ることにつながります。

2-3 弁護士が語る「無関係を証明する」ための具体的な方法

弁護士の立場から見ても、「契約に無関係であったことを証明する」のは簡単ではありません。しかし、以下のような資料がそろえば、極めて有利に働く可能性があります。

  • 奨学金契約書の写し(署名・押印の確認)
  • 当時の学籍証明書や在学状況
  • 家族の証言(特に借主となった親の供述)
  • 奨学金の使用目的に関する説明資料
  • 支援機構とのやりとりの記録(手紙・メール・通話メモ)

中でも、契約に使われた筆跡の鑑定や、当時の生活実態との照合(例えば自宅外で暮らしていた、そもそも学費が不要だったなど)は、「実際にその人が申し込む動機があったか否か」を明らかにする根拠となります。

また、父親や母親が裁判で正直に証言したことが、今回の札幌地裁での判決に大きく影響を与えたように、親族の協力を得ることも極めて重要です。

このような証拠の積み重ねが、「自分は契約していない」という主張を支える法的根拠になるため、ひとつひとつを丁寧に準備することが、最終的な判断を左右します。

 

日本学生支援機構(JASSO)の奨学金制度と注意点

3-1 JASSOの奨学金制度の種類と親の代理申請の実態

日本学生支援機構(JASSO)が提供する奨学金制度には、「給付型」と「貸与型」の2種類があります。給付型は返済不要の支援で、主に家計が厳しい家庭の学生を対象としています。一方で、多くの学生が利用しているのは「貸与型」であり、こちらは進学後に一定の猶予期間を経て返済が求められる制度です。

貸与型には「第一種(無利子)」と「第二種(有利子)」の2種類があり、条件や成績などに応じて利用が認められます。この制度の申請には、通常、進学予定の本人が申請書を記入し、学校や家庭の同意を得て提出します。ですが実際には、特に未成年の学生が対象となる場合、保護者が手続きを代行することが一般的であり、その過程で「本人が内容をよく理解しないまま申請が行われる」という事例が一定数存在します。

近年では、申請手続きにおいて本人確認やマイナンバー提出が義務化されるなど、制度の透明化も進められていますが、それでも家庭内での情報共有が不十分な場合には、子どもが自分の名義で奨学金が借りられていたことに気づかないケースもあります。

特に今回のように、親が善意で家庭の医療費や生活費の補填として利用していた場合、「家庭内の出来事」として処理されがちであり、第三者に知られずに何年も経過してしまうことがあるのです。

つまり、制度上の形式と実際の運用にはギャップがあり、家庭内の信頼関係や情報共有が不十分なまま、本人名義の契約が成立してしまうリスクが存在するのです。

これを防ぐためには、奨学金の申請時に保護者と本人がしっかりと情報を共有し、名義・用途・返済責任について相互に確認することが何より重要です。

3-2 「貸与型奨学金」とその返済義務の考え方

貸与型奨学金は「借りたら返す」が原則です。民間のローンと異なり、学生の将来を支援する目的で設計されているものの、契約はあくまで借金として法的に成立します。

そのため、本人名義で奨学金を借りた場合、たとえ本人が内容をよく理解していなかったとしても、形式上は返済義務が発生する可能性があります。今回のように、本人が契約に関与していなかったことを証明できる例は非常にまれであり、多くのケースでは「名義=責任」とみなされることが多いのが実情です。

また、返済が滞った場合には延滞金や信用情報への影響が生じ、長期的にはクレジットカードや住宅ローンなどの利用に支障をきたす可能性もあります。親が勝手に借りたとしても、その返済が名義人である子どもに転嫁されると、本人の社会生活に大きな影響を及ぼすリスクがあります。

特に問題なのは、家庭内で「親が返してくれると思っていた」との誤解が長年放置され、いざ請求が届いて初めて気づくというパターンです。これを防ぐためには、契約内容と返済責任を誰が負うのかを、家庭内で明確にしておく必要があります。

返済に不安がある場合は、早めに「返還期限猶予制度」や「減額返還制度」などの相談を行うことで、将来的なトラブルを回避することができます。

3-3 トラブルを防ぐために家庭で確認すべきポイント

このようなトラブルを未然に防ぐためには、家庭での話し合いと記録の共有が不可欠です。奨学金の申請時には、以下の3点を意識して確認しましょう。

  1. 誰が申請を行ったか(名義と記入者)
  2. 奨学金の目的と使用用途
  3. 返済義務者と返済方法の確認

このような情報を紙で残しておいたり、家族間で共有できるようにしておくことで、将来的なトラブルを大きく減らすことができます。

また、学生本人が「自分の名義でどのような契約が結ばれているのか」を意識するきっかけを持つことも重要です。進学時期の忙しさのなかでも、申請内容を確認する習慣を持たせることで、制度を正しく理解し、将来に備えることができます。

 

親が借りた奨学金の返済義務に悩んだとき、どうすればいいのか?

4-1 記事の要点整理:知らぬ間の契約でも諦めないで

本記事で紹介した札幌地裁の事例は、親が本人に無断で奨学金を借りていたという極めてまれなケースですが、契約に本人の関与がなければ、返済義務を免れる可能性があることを明確に示しています。

名義人であるというだけで返済を求められても、内容を確認せずに支払いに応じてしまうのではなく、「自分が本当にその契約に関与したのかどうか」を立ち止まって確認することが大切です。

具体的には、契約書の開示請求や家族への確認、法的機関への相談を通じて、関与の有無をしっかりと立証することで、自分の立場を守ることが可能になります。

4-2 今後に向けて:家庭内で奨学金の透明性をどう確保するか

奨学金制度は家庭の経済的負担を軽減する一方で、制度の理解が不十分なまま利用されると、大きな誤解やトラブルを招くリスクがあります。家庭内で、制度の仕組み・名義・返済責任についてしっかり話し合い、子どもと親の双方が情報を共有することが、もっとも効果的な予防策です。

特に、未成年である子ども名義の契約を結ぶ場合には、「誰が返すのか」「どこに振り込まれるのか」「何に使うのか」を事前に明確にしておくことが、将来的な信用情報や法的責任にも大きく影響します。

4-3 相談窓口と利用すべき支援制度まとめ

もしも自分が関与していない奨学金の返済を請求された場合は、まずは法テラスや弁護士会などの無料相談を活用しましょう。支援機構にも「返還相談窓口」があり、事情を伝えることで、柔軟な対応や制度の案内を受けられることがあります。

また、本人が困難な事情にある場合には「返還免除制度」や「返還期限猶予制度」の対象となる可能性もあります。制度の存在を知っておくだけでも、大きな安心材料になります。

親が借りた奨学金によって突然返済を求められたとき、まずは事実を整理し、自分の立場を確認しながら、正しい対応を進めていきましょう。法的にも、精神的にも支えてくれる制度や人が必ず存在します。 最後まで読んでいただきありがとうございます! この記事が少しでも参考になったなら幸いです。



参考にさせていただきましたサイト

日本学生支援機構(JASSO)「奨学金制度の種類と概要」

Wikipedia:「奨学金」

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